久々のハードSF 野尻抱介 「南極点のピアピア動画」 [お勧め本]
前からアマゾンのおすすめ本の中にあったんですが、題名に恐れをなして購入を躊躇していた本を、購入者のコメントのあまりの褒め具合に、思い切って購入してみました。
実はこの作者、大ファンでして、著作はほとんど読んでいたのですが、この表紙に躊躇してしまっていたのです。
アニメが好きな人ならご存知かも。「ロケットガール」の作者です。更に古いゲームファンなら「クレギオン」シリーズの作者といえばわかるかも。
察しのいい人はわかると思いますが、タイトルの語源は「ニコニコ動画」イラストは「初音ミク」です。
もちろん名前は「ピアピア動画」「小隅レイ」と名前を変えてはありますが、ほぼドキュメントに近い形で執筆してありますので、やたらリアルです。
ある日、彗星が月に衝突して、破片が地球の周りに飛び散り、月面開発が停滞してしまいます。
恋人に、「お前を宇宙に連れて行ってやる」と大見得を切っていた主人公もその道を閉ざされてしまい、絶望の底で、ボーカロイド「小隅レイ」に恋人に対する思いを歌わせて、それを「ピアピア動画」にアップするという、ある意味ダメ人間の消極的なシーンから物語は始まるのですが・・。
私はこの方面にあまり興味がなく、しょうもねー話だなあ、と思って読み進めていくと。
彗星から出た塵の影響で、南極に巨大な上昇気流が発生することに気づいた主人公は、これにカプセルを載せれば個人レベルで成層圏に上がれるのではないか、恋人を宇宙に連れていけるのではないかという可能性に気づきます。
最初の章で目的を失った主人公と友人が、「小隅レイ」を模したロボットを製造する、自己完結型のロボット工場、つまり自分で自分の部品を作って、組み立てられたロボットがさらに部品を製造するというシステムを作ってしまい、これが稼働する様子をピアピア動画にアップ。そしてこのシステムを使って宇宙へ出られる弾道飛行可能な宇宙船を作ろうと画策します。
当然、いろんな技術と資金が必要となるのですが、これに貢献するのが、「ピアピア動画」。
「ここをこうしたら」「資金をだそう」「これを作ることはできないか」と、見ず知らずの人間が、見返りを期待せずに関わってきたのです。面白そうだというただそれだけで。
もしここに営利が関わっていたらつまらないお話になってしまいますが、援助する人々の欲するものはただただ、自分の関わったプロジェクトが面白かったかどうか。
物語は、このあと4つの物語が時系列で並んで絡みながら進展していくのですが、最終的には、政府を差し置いて、民間人が星系外文明と勝手に接触、面白いからという理由で勝手に彼女を手助けするという素晴らしく爽快な物語になっていきます。爽快すぎて、感動して泣いてしまいました。
久しぶりの早川書房らしいハードSFです。
騙されたと思って読んでみてください。
それにしても、ここに出てくる技術は10年前ならSFの中にしか出てこない高度なものでしたが、今はほとんどが現存しています。
世界を結んだネットワーク、軌道エレベーターの理論、単分子ナノチューブで編まれた切れない繊維、個人レベルで可能な弾道飛行技術、翌日には届く宅配ネットワーク、ほぼ無人で自律して動く工場など。
ですからSFというより、科学ドラマに近いかも。
すごい時代になったものです。
にほんブログ村
にほんブログ村
にほんブログ村
コメント 0