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XL500Sってどんなバイク? その2 大型オフロード車には不幸な時代だった当時の日本市場 [80'HONDAXL500SA PD01]

XL500Sは不幸なバイクです。

当時はまだ現在のように高速道路網が繋がっておらず、1日に1000km走るなんてことは不可能でしたし、荷物を満載して長距離を一気に走るなら速度の出るオンロード車でという時代でした。

現在では絶賛されている、1980年にBMWが出したR80G/Sですら、当時の雑誌のインプレッションでは「大きく重く、オンでもオフでも中途半端なこんなバイク、誰が買うんだ?」という認識でしかなく、(そうです、あの時代、オンロードバイクはゼロヨンを何秒で走るか、最高速はどれだけ出るか、オフロードバイクはジャンプでどれだけ遠くへ飛べるかで甲乙がつけられた時代だったのです)、 ビッグオフに対する認識はまだ「ゲテモノ」でしかなかったのでした。もっともR80G/Sの価格は国産ナナハン2台分でしたから、こんな高価なバイクでオフロード突っこめるのはお金持ちのボンボンくらいだったでしょうが。

それはXL500Sに関しても変わりなく、当時の雑誌記事では「パワーはあるが重すぎてオフロードでは扱いきれない、モトクロスコースを使った混走24時間レースではDT125にも負けるし、カムチェーンは伸びきっちゃうし(まだオートテンショナーじゃなかったので。記事を読んだ時、ちゃんと整備してやれよと突っ込みたいところでした)全くいいとこのないオフロード車」ぐらいのインプレッションしかありません。

今だったら、例えばR1200GSをいきなりモトクロスコースへ持ち込んで「これじゃ重くて走れないからダメなバイクだ」なんて記事書きませんよね。でも当時は大排気量のオフ車でゆったりツーリングしようなんて記事は誰も書かなかったのです。

ちなみにXL500Sの雑誌記事はオークションやネットで検索しても10件ほどしか見つけることはできませんでした。しかもそのすべてが発売された1979年のもの。デビューしたから一応乗ってみました、オフロードへ持ち込んでいじめてみましたみたいな記事ばかりでした。

つまりこの頃のビッグオフの立ち位置は、熟成した2スト250ccにどれだけ迫れるか、というところだったと思います。 

なので、後年別冊モーターサイクリスト誌の「心に残る国産車」という特集に、最高のツーリングモデルだったというXL500Sの記事が登場した時はほんとに嬉しかったなあ。 

1976_XT500.jpg

直接のライバルは1976年にすでに発売され海外で好評だったヤマハXT500

ですが、まずは4ストのオフロード市場自体を本気で開拓するために、1978年にXL250Sが発売されました。

当時はオフロード車は2スト、20馬力以上、120㎏弱というのがスタンダードだった時代。(私は当時TS250の9型に乗ってました。)

SL250.jpg

(1972年式SL250S:マグネシウムを多用した今でも人気のホンダ初の本格的なオフロードバイク)

XL250.jpg

(1975年式XL250:シートは厚く見えるがほとんどエアボックスに場所を取られて内部がえぐられているのでケツが痛くなるのが最大の欠点で不人気でした。今となってはそれも可愛いと思えますが。基本設計が350ccなので重いのがねえ) 

4ストにこだわるホンダの前モデル、SL250SやXL250は主に重量面で大きなハンディを負っていました。(SL:22馬力136㎏、XL:20馬力148㎏、メーカーページより、これらは整備重量だと思われます)

L_xl250s_197806.jpg

そんな中、バランサー付きエンジンを積むことでパイプを薄肉化してアンダーループを省略したダイヤモンドフレームで徹底的な軽量化を図り、ロングストロークサス、他社より2インチ大きい23インチの前輪を持ちながら、2ストを凌駕する119㎏(乾燥重量、整備重量128㎏)、20馬力で登場したXL250Sはそりゃもう爆発的に売れたのでした。 それは中古車の流通量を見れば今でも想像できます。特にオートデコンプを装備して軽くなったキックとミラーがバッチリ見えるバランサーの効果、常に30kmを超える驚異的な燃費はツーリング用としても素晴らしいものでした。(TS250も燃費はいいほうだっったけど、DTなんか15kmがやっとでした)

Honda XL 500S 79  01.jpg

そして翌1979年にXL500Sが発売されたのですが、爆発的に売れたXL250Sと比べると全く売れずに2回のマイナーチェンジを経て、1981年式を最後にプロリンクサスのXL400Rにバトンを渡しました。実際、私も最初の500Sが家に来るまでは一度も見たことがありません。

ちなみに私のXL500Sは80年式の2型ですが、フレームナンバーから推察するとなんとたったの190台目です。 しかも1980年式なのに初年度登録は1982年です。つまり2年も売れ残っていたわけで。

ホンダの発表によると年間22000台(世界中に、ですが)売る予定だったみたいですが、国内ではなぜ売れなかったのでしょう。

これは1975年に、それまでは125cc以下の小型二輪とそれ以上の大型二輪の二種類に分かれていただけの二輪免許の区分が変わり、それまでは400cc(愛知県ではスズキGT380でした)のバイクを使った試験に合格すれば乗れた401cc以上の大型バイクに乗るために、合格率1%弱と言われた750cc(愛知県ではスズキGT750)を使った大型自動二輪免許試験の突破が必要となったからです。

しかもその時点では自動車学校では免許が取れず、試験場で一発勝負で取るしかないという、お上は若者には免許を絶対取らせる気がないよなあという状態だったのです。

しかも250cc以上のバイクにはあの忌まわしき車検が必要です。

車検と言っても今よりも自賠責がべらぼうに高く、大金が必要な時代でした。(この場合は関係ないですが、当時は初年度登録から10年を過ぎると毎年車検を受けなくてはなりませんでした。これのせいでどれだけの旧車が車検を取れずに捨てられたことか。)

さらに、その頃は改造が全く許されず(サスペンションの交換、ハンドルの交換は言うに及ばず、当時は車検証に色の記載があり、塗り替えた場合は記載変更しねければいけないという・・・。)車検毎にド・ノーマルに戻さなければいけないという暗黒時代だったのです。

これはサスペンションを改造したり、マフラーを変えてパワーアップしたりした上にコケてぶっ壊れることが前提のオフロードバイクには致命的でした。 

また、XT500やXL500Sは輸出がメインだったんですが、輸出仕様としては更に高性能なレーサー仕様のTT500やXR500が存在したために、海外でもあまり売れなくなった素のXT500やXL500Sなどの国内市場が更に縮小されるはめになっちゃったという・・・・。

結局排気量を400ccに縮小したXL400Rも車検という壁を破れず、XL250Rシリーズの好調な販売をよそに、XL500Sの血統は国内では一時途絶えてしまったのでした。(FT400、500ってのもありますが、あれはオフロード車とはいえないですね。のちにパリダカールラリーレプリカのXL600ファラオが国内販売されましたが) 

そのうえ、もっと不幸なことが起こります。

XL250SとXL500S、そっくりな見た目から想像できませんが、なんと設計者も違い、ほとんど共通部品もないという義兄弟なのですが、XL500Sのクランクケースの前後エンジンマウント位置がXL250SやロードモデルのCB250RSと共通だったために、いわゆる車検逃れの天ぷらナンバーの違法改造車にエンジンだけ持って行かれてしまったのです。(XL250Sはエンジン上のマウントを500S用に替えればそのまま搭載可能ですが、CB250RSはヘッドのアッパーマウント自体がフレームに干渉するため搭載された500エンジンはヘッドカバーのマウント部分が切り取られてしまいました。こうなるとシリンダーヘッドをまるごと交換しないとエンジンを500Sに戻すことはできません。これはXL400Rのエンジンについても同じです。)

つまり、今見ることのできるXL500Sはそういう危機を乗り越えて生き残った貴重な個体なのです。 

家で3台も死蔵していたのはかえってよかったのかもね。 

当然ですが、車検制度もなく、大型免許も不要で、延々と続くデザートを500ccのフルパワーで全開で走れるアメリカでは、XLやXTを始めとして更にオフロードに特化したXR500やTT500は数多く売れたようです。 

1.jpg 

あ、あと不幸仲間にはこんなのもいましたねえ。スズキのSP370。2ストメーカーだったスズキが初めて作った4スト単気筒車という貴重な立ち位置なのに、日本のオートバイ50年史とかにもなぜか記載漏れしている残念な子です。デコンプもバランサーもなく400ccクラス最軽量(なんと123㎏)とビッグトルクが売りでしたが、これまた車検制度に阻まれて700台ぐらいしか市場に出てないそうです。 

(写真は各メーカーHPより借りてきました) 

続く 


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路渡カッパ

懐かしい時代の話、楽しく読ませてもらいました。
20歳代後半、林道ツーリングをしたいと思い、CBナナハンを売っぱらってフロント23インチのXL250Sを新車で買ったのを思い出します。
現在所有している1975年式の初代XL125、不動なんで何とか直さないと・・・(^_^ゞ
「On Any Sunday」がフェイバリットムービーだと言えば年代が分かりますね♪
by 路渡カッパ (2016-08-30 10:56) 

二兎を追う男

アメリカのOHVは、大型どころか、免許不要ですからね。
体格があれば、小学生だってXR500に乗れちゃいますから。

国内だとXT400ってのもありましたね。
一度いっしょに林道走ったことあります。

SP370も幻ですが、先日ネットでSP500なるものを見ました。XLやXTの対抗馬?凄くカッコ良かったです。あれ、欲しい・・

by 二兎を追う男 (2016-08-30 21:43) 

MHR

路渡カッパさんありがとうございます。
XL250Sは最高のツーリングマシンでしたよねえ。CB250RSのヘッドやキャブに換装し、毎週メインジェットを持って恵那山の林道に入り浸ってました。
初代のXL125はXR200の元祖で希少ですね。
わたしも邦題「栄光のライダー」でダートに目覚めました。BIGWAVEも好きです。
by MHR (2016-08-30 23:34) 

MHR

二兎を追う男さんありがとうございます。
OHV(off highway vehicle)という言葉、XR500のことを調べていた時に初めて知りました。ただ、本来の不正地走行車という意味じゃないですよね。オフロードパークのことですか?
XT400も免許制度の犠牲で誕生したバイクですね。500の美しさを引き継がなかったのがなんとも残念な子です。
SP500って、DR500のご先祖ですか?日本では見たこともありません。
あー、オフロード天国のアメリカがうらやましー!
by MHR (2016-08-30 23:57) 

二兎を追う男

off highwayのhighwayは、公道・一般道という意味ですので、OHVは非公道仕様車という意味ですね。

公道ではないので免許不要、車検(一応州によっては排ガスメインの簡単なのがあります)不要。

走行場所は公道以外はどこでも、という訳には行かずに、専用のエリアに限られますが、まあ、1つのエリアで東京23区くらいの広さがありますので、実質自由走行です。

車検という意味では、カリフォルニアだと、山火事防止のためマフラーにスパークアレスターがあることは義務付けられています。
あと、最近のモトクロッサーとか、凄く改造したバギーなんかは、通称レッドステッカーと呼ばれる登録になり乗れる季節が冬場のみに限定になります。その他のOHV用に売られている車両や旧車はグリーンステッカーという登録で、年中OKです。

SP500って、何なんでしょうねえ・・ 私も写真で見ただけなので。
大きなヘッドライトやテールライトが付いていたので公道仕様車かと思ったのですが、エンデューロ車なのかなあ・・
シーラカンスのGSX250/400系の角っぽいデザインなのですが、それが妙にカッコいいのです。(笑)
by 二兎を追う男 (2016-08-31 00:25) 

二兎を追う男

SP500、ググッたら出て来ました。
1981~83までのデュアルパーパス車でした。XTやXLの対抗馬ですね。パリダカブームで出来たそうです。

http://www.motorcyclespecs.co.za/model/suzu/suzuki_sp500%2081.htm


by 二兎を追う男 (2016-08-31 00:33) 

二兎を追う男

度々すいません。
SPってアメリカでは公道車なんですね。
DRは日本では公道車ですが、こちらだとエンデューロ車。
きっと日本でいうDRがこちらではSPで売られていたのかも。
保安部品が全部付くと、SP500あまりカッコよくありません。(苦笑)
私が写真で見たのは改造されていたんですねえ・・

by 二兎を追う男 (2016-08-31 00:45) 

MHR

二兎を追う男さんありがとうございます。
ノーマルのSP500、ハスラーTS250の最終型みたいな外装ですね。TS250は8型はカッコ良かったのにどんどんかっこ悪くなって9型なんてダサさ爆発でした。
諸元を見ると油冷エンジンみたいですので国内のDR250/350の元祖でしょうか。
by MHR (2016-09-01 00:34) 

かある

うーん、
懐かしいお話で勉強になります。

しかも、自分にとってはちょい(!)お兄ちゃんたちのお話。
(いや、この歳になればりっぱな同世代と世間は見るんだろうなな)
当時、悪名高き、3ない運動まっさかりだったもんねえ。

今だに限定解除(死語ですぢゃ)しておらず、金と暇さえ出せば大型に乗れるのはわかってるけど、当時買った2半をいじって乗り続けてるのが唯一のこだわりと楽しみだったりします。
アハハハハハ

by かある (2016-09-03 19:56) 

さかもと

ご無沙汰しております。
夏の間は家族サービスに、四輪の故障→買い替え等が目白押しで、前回のモトカフェ以降は数えるほどしかバイクに乗れていませんでした。MHRさんのブログを拝見するたび、涼しい奥三河の山中にふらりと向かいたくなります。


当時は10年経過で毎年車検である事や、車検証に色の記載があったこと等を全く知りませんでした。今からは想像もできないほど大型二輪を取り巻く環境が厳しかったのですね。その環境がホンモノを育てた面があったのかもしれませんが・・・。


既にご存知かもしれませんが「On Any Sunday」は監督の息子さんにより続編が製作され、ライダーとしてはこちらも非常に素晴らしいものでしたのでご紹介します。久しぶりにBlue-rayを買ってしまいました。

https://www.youtube.com/watch?v=I5nglGD8AVI

同監督によるBaja1000のドキュメンタリー「Dust to glory」もおすすめです。
こういうことを考えていると、バラバラのまましばらく放置していたモトクロッサーを組む気がわいてきました。やるぞー。
by さかもと (2016-09-04 14:26) 

MHR

かあるさんありがとうございます。
3ない運動知ってる時点でお仲間ですな。
限定解除は、いっぺん乗ってみたかったバイクが500ccばかりだったので頑張りました。GT550とかCB500TとかSR500とかGL500とかもちろんXT500、XL500Sもそうです。たった100ccなのに届かないもどかしさ。
XLXは2台ありますので部品に困ったら奪いに来てください。
by MHR (2016-09-04 21:52) 

MHR

さかもとさんありがとうございます。
メーカーも罪なことをしてくれたというか、免許を400ccで区切っちゃった行政が悪いのか、たった100cc多いだけの500ccに乗れないもどかしさは今のライダーの比じゃありませんでしたねー。
On Any Sundayは1,2とも現地版をAMAZONで買いました。だって言葉はわからなくても問題ないんですもの。
Dust to Gloryは見たこと無いので探してみます。
これ見てるとモトクロッサーやエンデュロレーサー欲しくなりますよねー。
何事も健康なうちしかできませんよー。いっちゃいましょう!
by MHR (2016-09-04 22:00) 

かある

こんにちは。
本当にXLX250Rの部品が必要になりそうです。
どうやったらMHRさんに連絡できるんでしょうか?

by かある (2016-09-19 16:46) 

かある

こんにちは。
本当にXLX250Rの部品が必要になりそうです。
どうやったらMHRさんに連絡できるんでしょうか?
(さっきログインせずにコメントしたので再コメントです)

by かある (2016-09-19 16:49) 

MHR

かあるさんありがとうございます。
左のR100RS整備日誌にメールアドレス掲載してますのでそちらからお願いします。
by MHR (2016-09-19 18:14) 

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